死にたい君に夏の春を
「そういえば本って言ってたけど、なんの本?」


僕は聞いた。


「『最高の人生の過ごし方』って本」


なんだその胡散臭いような本は。


そんなものを死ぬ前に参考にしているのか。


というかどこでそんなもの見つけたんだ。


「あ、家着いちゃった」


気づけばもう、廃墟になったビルまで到着していた。


もう家って認識してるのが、なんとも悲しい気分にさせる。


「じゃ、僕こっちだから」


と言って家の方向へ歩こうとする。


「あ、待って」


彼女は言った。


「明日、ここに来てくれる?」


僕は振り返った。


「……うん。わかった」


初めて、約束というものをした。


そして僕らは別れて、それぞれ歩き出す。
< 33 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop