死にたい君に夏の春を
「いい所だね」


僕は初めて、そんな感情を抱いた。


「でしょ。夜は星が綺麗なんだ」


「是非見てみたいよ」


しばらく2人で、この景色をじっくり眺めた。


風の音と鳥の声だけが聞こえる、静かな空間。


ふと、ある疑問を思い出した。


「そういえば、僕を誘った理由って他にもあるんじゃないの?」


昨日、九条は僕と似ていると言った。


けれどそれだけが理由だとは思えない。


もっと、なにか重要な理由があるはず。


彼女は言った。


「最期の私を知っててくれる、相応しい人物だって思ったから」


僕は、九条の最期を知る人物として相応しい?


「どういうこと?」


「お母さんがせっかくくれた命だもん。誰にも認識されず、静かに死んじゃうのは勿体ない」


彼女のことは、今までいじめられている姿しか見たことがなかった。


だから、素の姿を見届けて欲しかったのだろう。


九条だって、秘密主義という身でありながらも、自分のことを誰かに知って欲しいと願った。


産んでくれた、母親のために。


なら何故、死ぬという道を選んだのだろう。


「死んだら、お母さん悲しまない?」


どこかのドラマか漫画で聞いたようなセリフをそのまま言う。
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