死にたい君に夏の春を
「あと、私がどんなことしても、君は誰にも言わないと信じたから」


「いや、そんなこと信じられても……」


「だって、私が校舎裏で殴られてるところ見ても、誰にも言わなかったでしょ」


心臓が縮み上がる。


彼女は気づいていたのか。


僕があの惨状を見ていたこと、そしてそれを無視したこと。


「あ、あれは、ちがっ……」


何が違うんだ、事実じゃないか。


僕の言い訳を遮るように、彼女は言った。


「わかってる、あそこで何か言っても君がとばっちりを受けるだけだから。それに無視してくれた方が、私にとっても好都合だし」


「好都合?殴られることのどこが好都合なんだ?」


「…………」


彼女は何も言わない。


ただ遠くを見て、無表情なまま。
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