死にたい君に夏の春を
次の日の朝のこと。
「飯、あるか?」
こんな暑いのに長袖のスーツを着た父が、数日ぶりに話しかけてきた。
冷蔵庫を開けながらこちらを見る。
「買ってない」
僕が答えると、諦めたように父は何も言わず家を出ていった。
たったの5秒で会話が終了。
もはや親子の会話ではない。
思えば、父とは家族と言える関係ではない気がする。
お互い干渉しようとせず、ただ一緒に住んでいるだけの同居人。
無関心なままこの2人だけで、ボロいアパートに住んでいる。
母親は、もういない。
僕が小学2年生の時にエイズという病気にかかって死んだ。
母は自由奔放な人だった。
夫と子供がいるのにも関わらず、ずっと海外にいたり、違う男の人と寝たりしていた。
自由すぎたのが仇となったのか、知らぬ間にエイズに感染し、生きる理由がなくなった彼女は自殺した。
うんと高いビルから落ちて死んだのだ。