死にたい君に夏の春を
陽が高くなり、影の範囲も狭くなってきた。
屋上に来た時より風も吹かなくなり、夏の暑さを感じる。
僕らは3階の部屋に戻ることにした。
来てすぐ、彼女はひとつの長机の近くでしゃがんだ。
「見て欲しいものがあるの」
そう言って、机の下にあった大きな缶の箱を取り出した。
何も書いてない、無地の銀色の缶。
開けるとそこには、ドラマとかで見たことあるような銃があった。
黒くてずっしりと重そうな見た目である。
「モ、モデルガン?」
「いや、本物」
彼女は銃を持ち上げ、弾倉を引き抜いた。
中にはBB弾ではなく、ちゃんとした弾丸が入っている。
「なんでこんなもの……」
「家にあったから」
どこまで非日常的なんだ、九条の家は。
「これで、死ぬのか?」
そう言うと、彼女は。
「いや、これでは絶対死にたくない」
なにか思うところがあるのか、きっぱり言った。
「護身用ってこと。もし何かあったら、使ってもいいよ」
「何かあっても使いたくはないかな……」
なにも起こらないことを祈るしかない。