死にたい君に夏の春を
小さな幸せ
炎天の中、僕のことも気にせずさっさと行く九条に着いていく。
廃墟のビルから歩いて20分。
昔ながらの、そこそこ大きい銭湯に着いた。
今まで別に行く理由もないし、わりと遠いから入ったことは無い。
人で賑わっているのを想像したが、昼間だからかまだ人は少なかった。
ここまで来るのにずっと無言だったが、大きな銭湯を眺めて九条は言った。
「じゃあ、放置してある鍵があったすぐ盗ってね」
「……え?」
「ここ仮眠室あるし、おじいちゃんとおばあちゃん多いからすぐ逃げれるよ」
いや、何を言っているのだ。
突拍子もない発言に脳が追いつかない。
「また30分後」
そう言って立ち去ろうとする九条の手を掴んだ。
「ちょ、ちょっと。どういうこと?」
キョトンとした顔で彼女は言う。
「うん?盗むんだよ、お金を」
「いや、普通に犯罪だし……」
といっても、もう2回ほど犯行現場を目撃しているのだが。
「別にバレないよ。しょっちゅうやってるから」
しょっちゅうやってることと、慣れてることに驚いた。
段々、こいつの性格がわかってきたような……。