死にたい君に夏の春を
いつだったか、校舎裏で集団リンチされている所を見たことがある。


殴られたり、蹴られたり、水をかけられたり。


だが彼女はどんなに暴力を振るわれても、うめき声すらあげなかった。


ただじっと俯いて、時が過ぎるのを待っているかのようだった。


そんな彼女を、僕は見て見ぬふりをするしかなかったのだ。


自分には関係ない、そう言い聞かせるようにその時僕は立ち去った。


しかし、成人男性をスマホでボコボコにするくらいなのに、なぜ学校でいじめられてもなにもしなかったのだろう。


謎多き少女である。


苗字の呼び方は間違っていたが、僕のこともちゃんと認識していた。


クラスメイトの事なんてどうでも良さそうなのに、何故覚えていたのか。


そうやって彼女のことを考えていると、だんだん馬鹿らしくなってきた。


そうだ、僕には関係ないんだ。


こんなことを考えるほど、無意味なものはない。


昨日のことは忘れたことにしよう。


気持ちを切り替えて僕は朝食を用意しようと、食料が入ってるはずの棚を開けた。


だが中身は空っぽ。


そういえば何も無かったんだ……。


そのことに気づき、財布を持って家を出た。
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