地味子のセカンドラブ―私だって幸せになりたい!
2.カッコいい独身エリートと食事した!
朝6時に目覚ましが鳴る。昨日は疲れていたのか、すぐに眠ってしまった。今日は金曜日、簡単な朝食を食べながら、ブログのコメント欄を見る。
[よかったね!本当に誘ってもらえるといいね!]
[カッコいい人には気を付けて、一度懲りているんでしょ!]
[食事でもっていうのは、単なる社交辞令、期待をしてはいけない!]
7時30分には家を出る。通勤時間は50分くらい。勤務開始は9時からだけど、電車が遅れることはしょっちゅうなので、遅れても遅刻しないように早めに出ている。
4半期ごとの決算の日が近いので、今日は朝から来客が多い。総務部の応接は3つあるけど、朝から来客がひっきりなしにきている。そのためお茶を出したり、下げたりで忙しい。会議も朝から行われているが、会議には原則、お茶は出さない。
ただ、部長の席のところへ来客があると、お茶を出す。これがまた結構多い。定時を過ぎると来客への応接はなくなるが、今度は会議録や資料の作成でコピーを頼まれることが多くなる。
でも、今日は少ない方で、まだ7時前だけど、これで仕事はお仕舞い。コピーをしていると、また、岸部さんがコピーをしにやってきた。
仕事の合間に同じ総務部にいる派遣社員の同僚二人に企画開発室の岸辺さんを知っているか聞いたところ、二人とも知っていた。
企画開発室の管理職でプロジェクトマネージャーをしていて、室長の右腕で、独身のエリートと教えてくれた。知らないのは私だけだった。
「がんばってるね」
「これは量が少ないので、すぐに代わります」
「いいよ、終わってからで」
「じゃあ、次の資料が終わるまで使わせて下さい。その後、使ってください。もう一つは量が多いので、終わってからにします」
「そうしてもらえると、またトラブルがあったらお願いできるから好都合だ」
「でもトラブルはめったにないんですけどね」
「結構、忙しそうだね」
「ここのところずっと決算の準備の資料を作っています」
「今日も遅くなりそうなの?」
「今日はこれで終わりです」
「じゃあ、昨日のお礼をさせてくれる? 夕食でもご馳走したいけど、どうかな?」
「悪いから、お心遣いは無用です」
「これから、またお世話になるかもしれないから。横山さんの帰り道によいお店ないのかな。家はどこの沿線? 最寄り駅は?」
「田園都市線の溝の口です」
「やはりそうか、昨日の帰りに銀座線の表参道のホームでみかけたから。僕は田園都市線の二子新地」
「そうなんですか」
「じゃあ、7時過ぎにビルの出口で待っているから、いいね」
「すみません。分かりました」
岸辺さんに強引に誘われた。遠慮してはみたけど、本当はとっても嬉しかった。左手首の傷がピリピリしている。岸辺さんはすぐ近くに住んでいた。
コピーを終えて席に戻ると、別の資料のコピーを頼まれた。約束の時間は7時過ぎだから、コピー室へ行ってすぐに済ませる。今度は席に戻るとすぐに退社した。
入口で岸辺さんが待っていてくれた。
「すみません。お待たせして、帰りがけにまたコピーを頼まれてしまって」
「気にしないで、無理やり誘ってしまったから、もういいのかい」
「大丈夫です」
「じゃあ、行こうか」
「本当にいいんですか。ただ、コピーのつまりを直しただけで。業務の一環ですけど」
「遠慮しなくていいよ。本当に助かった。どこがいい?」
「じゃあ、溝の口に私がいつも行っている焼き肉屋さんがあるんです。高級ではありませんが、値段も手ごろで、どうですか?」
「いいね。焼肉か、食べたいな。ここのところ仕事が忙しかったから、ばて気味でちょうどいい。そこへ行こう。じゃあ、先に歩いて、僕は歩くのが早いから、君について行く」
岸辺さんは、私と二人で歩いているところを見られないようにするためか、私を先に歩かせた。私は地下鉄のホームをいつも乗る位置まで進んで行く。
丁度電車が入ってきたので、二人乗り込む。表参道で乗り換えたが、混んでいて電車の中では話ができない。
二子新地から2つ目の溝の口で下車。改札口を抜けて5分ばかり歩いた古い建物の2階の焼肉店に入る。
「女の子が焼肉っておかしいですか?」
「いやいや、肉食系が今はやっているから。近頃は高齢者には魚よりも肉を勧めているくらいだ」
注文は私に任せると言うので、丁度二人分くらいの量を頼んだ。飲み物は、岸辺さんは瓶ビール、私もハイサワーを注文した。一緒にお酒を飲んでみたかったから。
飲み物が運ばれてきて、まず乾杯。しばらくして、肉が運ばれてきたので焼いてあげる。
「ときどき無性に食べたくなるので一人で来て食べています。ここは昔から家族でもきていたところなんです」
「家族と一緒に暮らしているなんていいね。僕は天涯孤独だよ」
「私も同じようなものです。父は高校生の時、事故でなくなりました」
「交通事故かなんか?」
「大工だったんです。高いところから落ちてそれがもとで」
「そうなんだ。僕の両親は大学に入った年に交通事故でなくなった」
「そうなんですか」
「でもお母さんはいるんだろう」
「母は再婚しました」
「へー」
「母は幸せみたいで、良かったと思っています。休みの日にお互いの家を行き来しています。唯一の家族ですから、お互いに頼りにしています」
「一緒に暮らせばいいのに」
「母と結婚した人はいい人でそう言ってくれますが、母の負担にならないように遠慮しています」
「それで、一人暮らしなの?」
「一人の方が気楽ですから」
「寂しくないの」
「所詮、人間一人ですから」
「そうだね。所詮人間は一人ぼっち。それが分かっていれば人とのつながりを大切にできる」
「私もそう思っています。肉が焼けました。食べてください」
「お客さんの横山さんもどんどん食べて」
「食べています。おいしい。元気がでます」
「朝は何時ごろに会社に来ているの?」
「電車が遅れることがあるので、それを見越して、絶対に遅刻をしないように早めに出るようにしています」
「朝のラッシュは殺人的だからね」
「溝の口は降りる人がいるので、なんとか乗れます」
「僕の二子新地はいっぱいで乗れないことがあるから、やはり早めに出勤している」
「会社に着くのはいつ頃ですか」
「大体8時まえ」
「随分早いですね。それじゃ駅では会いませんね。帰りは同じころが多いと思いますがお会いしませんでしたね」
「今まで気が付かなったかもしれないし、乗り降りするホームの位置が違っているからじゃないか」
「通勤にリュックを使っているみたいだけど?」
「ラッシュでカバンがつぶれるのでリュックにしてみました。帰りにスーパーで買い物をするので中に入れられますし、両手が使えますから便利です。一度使うと止められなくなりました」
「確かに便利そうだね」
「カッコいい岸辺さんには似合いません」
「そうかな」
それから会社のことやお互いのことで話が弾んだ。岸辺さんは企画開発室のプロジェクトマネージャーで課長代理。入社12年、35歳で、私より11歳も年上だったけど年齢よりもずっと若く見える。
上司の竹本企画開発室長は研究所時代の直属の上司で、岸辺さんはその室長に呼ばれて3年前に転勤して来たとのこと。住まいは二子新地の賃貸マンション。
岸辺さんは私のことはコピー室で会うまでは知らなかったと言って謝っていた。でも私は総務部へ来てからまだ1年位で、地味にしているので気が付かないのは当たりまえだと思う。
なぜ、誘ってくれたのか、もう1回尋ねてみたけど、コピー機を直してもらったお礼だと言っていた。ただ、私と話をしているとなぜかほっとするとも言ってくれた。私が地味な女の子だから気楽に話せると思っているからだろう。
丁度二人でお腹が一杯になるくらいの量を注文していたので残さず食べた。なかなかおいしい肉だと言ってくれてよかった。私はハイサワーをおかわりした。
「お酒強いんだね」
「そうでもないですが、嬉しい時や楽しい時は飲みたくなります」
「それはよかった」
「ありがとうございました。久しぶりです。誰かと一緒に食事をしたのは」
「僕も女性と食事をするのは久しぶりで楽しかった」
「お勘定、私も払わせて下さい」
「いいよ、お礼に誘ったのは僕だから」
「おいしくて楽しかったから、私も払います。こうさせて下さい。岸辺さんのお給料は私の何倍くらいですか?」
「うーん。おそらく2倍以上は貰っていると思うけど」
「それなら、岸辺さんが2、私が1だから、1/3払わせて下さい」
「どうしてもと言うのならそれでもいいけど、君のような娘は初めてだよ」
「死んだ父は、うまいものは自分の稼いだ金で食べる! といっていました。そう言って毎日仕事の帰りに居酒屋でお酒を飲んでいました。それを私と母がとがめると『てめえが働いた金で好きな酒を飲んでなにが悪い、会社の金や接待でただ酒を飲むのとは訳が違う』と怒っていました。今は父の言っていたことがよく分かります」
「お父さんは偉いね。それじゃあ、今日の焼肉はおいしくて楽しかったということでよかった」
「ごちそうさまでした」
お勘定を済ませると私はそのまま歩いて帰った。アパートはここから徒歩10分くらいのところにある。
岸辺さんは家まで送ろうかと言ってくれたけど、まだ早い時間なので大丈夫と言って遠慮した。みすぼらしい古いアパートを見られるのがいやだったからでもある。
家についてしばらく余韻に浸っている。やはり緊張して話していたみたいで疲れた。でも心地よい疲労。
あのカッコいい岸辺さんと二人で食事しながらお話ができた。とっても楽しかった。不思議なことにその間、傷はおとなしくしていた。
寝る前にブログに今日の焼肉の写真をUpして書き込みもする。
〖社交辞令と思っていたけど、カッコいい人に誘われて焼肉を食べに行った。話が弾んで楽しかった! その間は左手首の傷は何ともなかった〗
コメント欄
[よかったじゃない、彼はあなたに気があるんじゃない! でないと誘わない]
[すぐに食事に誘う男には要注意!遊ばれないように気を付けて!]
[楽しければいいじゃない。これからも誘われたら断らない方が良いよ!]
[よかったね!本当に誘ってもらえるといいね!]
[カッコいい人には気を付けて、一度懲りているんでしょ!]
[食事でもっていうのは、単なる社交辞令、期待をしてはいけない!]
7時30分には家を出る。通勤時間は50分くらい。勤務開始は9時からだけど、電車が遅れることはしょっちゅうなので、遅れても遅刻しないように早めに出ている。
4半期ごとの決算の日が近いので、今日は朝から来客が多い。総務部の応接は3つあるけど、朝から来客がひっきりなしにきている。そのためお茶を出したり、下げたりで忙しい。会議も朝から行われているが、会議には原則、お茶は出さない。
ただ、部長の席のところへ来客があると、お茶を出す。これがまた結構多い。定時を過ぎると来客への応接はなくなるが、今度は会議録や資料の作成でコピーを頼まれることが多くなる。
でも、今日は少ない方で、まだ7時前だけど、これで仕事はお仕舞い。コピーをしていると、また、岸部さんがコピーをしにやってきた。
仕事の合間に同じ総務部にいる派遣社員の同僚二人に企画開発室の岸辺さんを知っているか聞いたところ、二人とも知っていた。
企画開発室の管理職でプロジェクトマネージャーをしていて、室長の右腕で、独身のエリートと教えてくれた。知らないのは私だけだった。
「がんばってるね」
「これは量が少ないので、すぐに代わります」
「いいよ、終わってからで」
「じゃあ、次の資料が終わるまで使わせて下さい。その後、使ってください。もう一つは量が多いので、終わってからにします」
「そうしてもらえると、またトラブルがあったらお願いできるから好都合だ」
「でもトラブルはめったにないんですけどね」
「結構、忙しそうだね」
「ここのところずっと決算の準備の資料を作っています」
「今日も遅くなりそうなの?」
「今日はこれで終わりです」
「じゃあ、昨日のお礼をさせてくれる? 夕食でもご馳走したいけど、どうかな?」
「悪いから、お心遣いは無用です」
「これから、またお世話になるかもしれないから。横山さんの帰り道によいお店ないのかな。家はどこの沿線? 最寄り駅は?」
「田園都市線の溝の口です」
「やはりそうか、昨日の帰りに銀座線の表参道のホームでみかけたから。僕は田園都市線の二子新地」
「そうなんですか」
「じゃあ、7時過ぎにビルの出口で待っているから、いいね」
「すみません。分かりました」
岸辺さんに強引に誘われた。遠慮してはみたけど、本当はとっても嬉しかった。左手首の傷がピリピリしている。岸辺さんはすぐ近くに住んでいた。
コピーを終えて席に戻ると、別の資料のコピーを頼まれた。約束の時間は7時過ぎだから、コピー室へ行ってすぐに済ませる。今度は席に戻るとすぐに退社した。
入口で岸辺さんが待っていてくれた。
「すみません。お待たせして、帰りがけにまたコピーを頼まれてしまって」
「気にしないで、無理やり誘ってしまったから、もういいのかい」
「大丈夫です」
「じゃあ、行こうか」
「本当にいいんですか。ただ、コピーのつまりを直しただけで。業務の一環ですけど」
「遠慮しなくていいよ。本当に助かった。どこがいい?」
「じゃあ、溝の口に私がいつも行っている焼き肉屋さんがあるんです。高級ではありませんが、値段も手ごろで、どうですか?」
「いいね。焼肉か、食べたいな。ここのところ仕事が忙しかったから、ばて気味でちょうどいい。そこへ行こう。じゃあ、先に歩いて、僕は歩くのが早いから、君について行く」
岸辺さんは、私と二人で歩いているところを見られないようにするためか、私を先に歩かせた。私は地下鉄のホームをいつも乗る位置まで進んで行く。
丁度電車が入ってきたので、二人乗り込む。表参道で乗り換えたが、混んでいて電車の中では話ができない。
二子新地から2つ目の溝の口で下車。改札口を抜けて5分ばかり歩いた古い建物の2階の焼肉店に入る。
「女の子が焼肉っておかしいですか?」
「いやいや、肉食系が今はやっているから。近頃は高齢者には魚よりも肉を勧めているくらいだ」
注文は私に任せると言うので、丁度二人分くらいの量を頼んだ。飲み物は、岸辺さんは瓶ビール、私もハイサワーを注文した。一緒にお酒を飲んでみたかったから。
飲み物が運ばれてきて、まず乾杯。しばらくして、肉が運ばれてきたので焼いてあげる。
「ときどき無性に食べたくなるので一人で来て食べています。ここは昔から家族でもきていたところなんです」
「家族と一緒に暮らしているなんていいね。僕は天涯孤独だよ」
「私も同じようなものです。父は高校生の時、事故でなくなりました」
「交通事故かなんか?」
「大工だったんです。高いところから落ちてそれがもとで」
「そうなんだ。僕の両親は大学に入った年に交通事故でなくなった」
「そうなんですか」
「でもお母さんはいるんだろう」
「母は再婚しました」
「へー」
「母は幸せみたいで、良かったと思っています。休みの日にお互いの家を行き来しています。唯一の家族ですから、お互いに頼りにしています」
「一緒に暮らせばいいのに」
「母と結婚した人はいい人でそう言ってくれますが、母の負担にならないように遠慮しています」
「それで、一人暮らしなの?」
「一人の方が気楽ですから」
「寂しくないの」
「所詮、人間一人ですから」
「そうだね。所詮人間は一人ぼっち。それが分かっていれば人とのつながりを大切にできる」
「私もそう思っています。肉が焼けました。食べてください」
「お客さんの横山さんもどんどん食べて」
「食べています。おいしい。元気がでます」
「朝は何時ごろに会社に来ているの?」
「電車が遅れることがあるので、それを見越して、絶対に遅刻をしないように早めに出るようにしています」
「朝のラッシュは殺人的だからね」
「溝の口は降りる人がいるので、なんとか乗れます」
「僕の二子新地はいっぱいで乗れないことがあるから、やはり早めに出勤している」
「会社に着くのはいつ頃ですか」
「大体8時まえ」
「随分早いですね。それじゃ駅では会いませんね。帰りは同じころが多いと思いますがお会いしませんでしたね」
「今まで気が付かなったかもしれないし、乗り降りするホームの位置が違っているからじゃないか」
「通勤にリュックを使っているみたいだけど?」
「ラッシュでカバンがつぶれるのでリュックにしてみました。帰りにスーパーで買い物をするので中に入れられますし、両手が使えますから便利です。一度使うと止められなくなりました」
「確かに便利そうだね」
「カッコいい岸辺さんには似合いません」
「そうかな」
それから会社のことやお互いのことで話が弾んだ。岸辺さんは企画開発室のプロジェクトマネージャーで課長代理。入社12年、35歳で、私より11歳も年上だったけど年齢よりもずっと若く見える。
上司の竹本企画開発室長は研究所時代の直属の上司で、岸辺さんはその室長に呼ばれて3年前に転勤して来たとのこと。住まいは二子新地の賃貸マンション。
岸辺さんは私のことはコピー室で会うまでは知らなかったと言って謝っていた。でも私は総務部へ来てからまだ1年位で、地味にしているので気が付かないのは当たりまえだと思う。
なぜ、誘ってくれたのか、もう1回尋ねてみたけど、コピー機を直してもらったお礼だと言っていた。ただ、私と話をしているとなぜかほっとするとも言ってくれた。私が地味な女の子だから気楽に話せると思っているからだろう。
丁度二人でお腹が一杯になるくらいの量を注文していたので残さず食べた。なかなかおいしい肉だと言ってくれてよかった。私はハイサワーをおかわりした。
「お酒強いんだね」
「そうでもないですが、嬉しい時や楽しい時は飲みたくなります」
「それはよかった」
「ありがとうございました。久しぶりです。誰かと一緒に食事をしたのは」
「僕も女性と食事をするのは久しぶりで楽しかった」
「お勘定、私も払わせて下さい」
「いいよ、お礼に誘ったのは僕だから」
「おいしくて楽しかったから、私も払います。こうさせて下さい。岸辺さんのお給料は私の何倍くらいですか?」
「うーん。おそらく2倍以上は貰っていると思うけど」
「それなら、岸辺さんが2、私が1だから、1/3払わせて下さい」
「どうしてもと言うのならそれでもいいけど、君のような娘は初めてだよ」
「死んだ父は、うまいものは自分の稼いだ金で食べる! といっていました。そう言って毎日仕事の帰りに居酒屋でお酒を飲んでいました。それを私と母がとがめると『てめえが働いた金で好きな酒を飲んでなにが悪い、会社の金や接待でただ酒を飲むのとは訳が違う』と怒っていました。今は父の言っていたことがよく分かります」
「お父さんは偉いね。それじゃあ、今日の焼肉はおいしくて楽しかったということでよかった」
「ごちそうさまでした」
お勘定を済ませると私はそのまま歩いて帰った。アパートはここから徒歩10分くらいのところにある。
岸辺さんは家まで送ろうかと言ってくれたけど、まだ早い時間なので大丈夫と言って遠慮した。みすぼらしい古いアパートを見られるのがいやだったからでもある。
家についてしばらく余韻に浸っている。やはり緊張して話していたみたいで疲れた。でも心地よい疲労。
あのカッコいい岸辺さんと二人で食事しながらお話ができた。とっても楽しかった。不思議なことにその間、傷はおとなしくしていた。
寝る前にブログに今日の焼肉の写真をUpして書き込みもする。
〖社交辞令と思っていたけど、カッコいい人に誘われて焼肉を食べに行った。話が弾んで楽しかった! その間は左手首の傷は何ともなかった〗
コメント欄
[よかったじゃない、彼はあなたに気があるんじゃない! でないと誘わない]
[すぐに食事に誘う男には要注意!遊ばれないように気を付けて!]
[楽しければいいじゃない。これからも誘われたら断らない方が良いよ!]