大江戸シンデレラ
◆◇ 二段目 ◇◆
◇明石稲荷の場◇
明け六つ、お天道さまが面を見せる刻になった。
吉原の廓中に浅草寺からの鐘の音が響きわたり、夜深ぴたりと閉じられていた「外」へのたった一つの扉、大門が開く。
昨夜の宴のあと、馴染みの妓としっぽり一つ布団で眠りについた男たちにとって、おのおの名残惜しい心持ちを押し殺し、しばしの暇を告げねばならぬ「後朝の別れ」がきた。
今度逢えるのは、また仲ノ町の引手茶屋を通して手筈を整えたときだ。
妓の方とて「わっちには主さんだけでありんす。日を待たずして逢いに来なんし」と寄り添いながら、泣く泣く男どもを送り出す。
されども……
いずれの妓も、振り返ればたちまちのうちに、ふわあぁと欠伸を噛み殺しつつ布団に戻り、さっさと二度寝を決め込むのだ。
そうじて、廓のおなごは朝に弱い。
巳の刻(午前十時)の朝餉まで起きてこない。
吉原は久喜萬字屋の「朝」が始まった。