大江戸シンデレラ
◆◇ 二段目 ◇◆

◇明石稲荷の場◇


()け六つ、お天道(おてんと)さまが(おもて)を見せる(とき)になった。

吉原の(くるわ)中に浅草寺からの鐘の音が響きわたり、夜深ぴたりと閉じられていた「外」へのたった一つの扉、大門が開く。


昨夜の(うたげ)のあと、馴染(なじ)みの(おんな)としっぽり一つ布団で眠りについた(おのこ)たちにとって、おのおの名残惜しい心持ちを押し殺し、しばしの(いとま)を告げねばならぬ「後朝(きぬぎぬ)の別れ」がきた。

今度逢えるのは、また仲ノ町の引手茶屋を通して手筈(てはず)を整えたときだ。

妓の方とて「わっちには(ぬし)さんだけでありんす。日を待たずして逢いに()なんし」と寄り添いながら、泣く泣く男どもを送り出す。


されども……

いずれの妓も、振り返ればたちまちのうちに、ふわあぁと欠伸(あくび)を噛み殺しつつ布団に戻り、さっさと二度寝を決め込むのだ。

そうじて、廓のおなごは朝に弱い。
巳の刻(午前十時)の朝餉(あさげ)まで起きてこない。


吉原は久喜萬字屋(くきまんじや)の「朝」が始まった。

< 10 / 460 >

この作品をシェア

pagetop