大江戸シンデレラ
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜


舞ひ(まい)つるは、いつものように朝餉(あさげ)の前にお参りするために、小さな御堂へと向かった。

ほぼ真四角に造られた吉原の敷地内には、各四方の(すみ)に「榎本稲荷」「明石稲荷」「開運稲荷」「九郎助稲荷社」の祠がある。

そのすべてが狐を「神の使い」とするお稲荷さんであるのは、(ちまた)で豪商たちが「商売の神様」と崇めていて、それを吉原の(くるわ)(あるじ)たちもあやかったためだと云われている。

もしくは、見世にやってくる客人たちが「女狐」のごとき遊女や女郎たちに化かされて、いつの間にか根こそぎ有り金を落としていた、ということを夢見て願掛けしているのもしれない。


舞ひつるにとっての「氏神様」は、久喜萬字屋のある江戸町二丁目の筋から大門側に一本入った伏見町の(かど)っこに祀られた明石稲荷だ。

祠の前に立った舞ひつるは、まずは垂れ下がった鈴をじゃらんと鳴らしてから二度拝礼したあと、ぱんぱんっと手を二度打ち鳴らした。

——今日もお天道様を拝めて、ありがたいことでありんす。
唄も舞も精進して、わっちもいつか死んだ祖母(ばば)さまやおっ()さんのように、吉原で一番(いっち)綺麗で芸のある「呼出」になりなんし……

かようなことを胸の中で唱えたのち、一番(いっち)深く拝礼した。

< 11 / 460 >

この作品をシェア

pagetop