大江戸シンデレラ
武家言葉になった兵馬は、聞く者に有無を云わせぬ堂々とした物云いだった。
——あぁ、やはり若さまは「お武家」の……
それも「与力の御曹司様」でありんす。
紛れもなく氏も育ちも違うことが、舞ひつるの心根に沁み入んできた。
——なのに、かようなお人が「諱」を名乗るなど、あるまじきことでなんし。
そもそも、わっちとは……生きていく処が異なるお人でありんす。
舞ひつるの目が、遠くを彷徨いだす。
——若さまのようなお人が、わっちのような者に真名を名乗るなど……
だが、さように揺れる舞ひつるの目は、すぐに兵馬の眼力によって引き戻された。
そしてまた、その鋭い目にがっちりと捕らえられる。
「……諱を教える代わりに、そなたの真名も教えてくれるでござるな」
もう一度、兵馬が問うた。
舞ひつるは、心では重々判っているはずなのに……どうしても抗いきれなかった。
……とうとう、首を縦に下ろしてしまった。