大江戸シンデレラ
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つい先刻(さっき)、夜見世が閉じられた。
大川の川開きを彩る花火もとっくに終わったらしく、もう音も聞こえてこない。

宴をぞんぶんに楽しんだ客は今ごろ、馴染(なじ)みの(おんな)と一つ布団の中だ。

ゆえに、夜更けの(くるわ)は潮が引いたかのごとく静かになった。


舞ひつるは急いで真っ赤な振袖を脱ぎ、着付けの男衆(おとこし)に渡した。

遊女たちの着物は重いし、着付けるのにも力がいるゆえ、(おのこ)の仕事だった。
預けた着物は明日の夜見世の前に、また綺麗(きれぇ)(なり)になって戻ってくるという寸法だ。

男衆が去ったあと米糠(こめぬか)化粧(けわい)を落とすと、緋縮緬の襦袢の上に黄八丈を(まと)う。

——若さまも、もう御役目を終えなんしかえ。
もうお稲荷さんに行っとりんす頃合いかも……

胸の(うち)ではそわそわとして焦りつつも、手早く帯を玉章(たまずさ)結びに締める。

羽衣は今宵の客と寝間に引き上げたが、禿(かむろ)の羽おりと羽おとは同じ部屋で同じように化粧を落としたり着替えたりしていた。

——さて、如何(いか)にして、二人に気づかれずに見世の外に出なんしかえ。


かように思案していると、(ふすま)がすーっと開いた。

番頭新造のおしげ(・・・)であろうか、と三人が入り口の方へ振り向いた。

ところが、誠にめずらしきことにお内儀(かみ)おつた(・・・)であった。

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