大江戸シンデレラ
「おまえさんたち、今日は一日ご苦労だったね」
どうやら、朝から晩までてんやわんやだった今日一日を労うために、お内儀自ら妓たちを回っているらしい。
一年のうちでも指折りの大商いを無事終えて、気丈なおなごと評判のお内儀であっても、やはりほっとしたのであろう、顔つきがやわらかい。
「御座敷ではほとんど食べてないだろ。
一階の内所に、余らせたおまんまを支度してあるから食べてくるといいよ」
今日の宴では、お内儀の実家にあたる浅草の料理茶屋が特に腕によりをかけた豪華で美味しそうな料理が並んでいた。
羽おりと羽おとの顔が、みるみるうちに綻ぶ。
二人とも、小さい身体で朝から晩までよく働いた。褒美があっても罰は当たらない。
「舞ひつるには、ちょいと話があるからね。
おまえたち、先に行っといで」
「「お内儀さん、ありがたきことでなんし。
舞ひつる姐さん、お先でありんす」」
三つ指ついた二人は、双子のごとくぴたりと合わせてお辞儀をした。
声が辺りに響くといけないため、小声だ。
そして、すぐさま立ち上がると、いそいそと部屋を出て行った。
——二人が出て行っておくんなんしたのは、良うありんした。
あとは、お内儀さんと早う話を切り上げて、見世を抜け出すなんし。
この後まだほかの部屋も回らねばならぬお内儀は、きっとさほど此処には止まらぬであろう、と舞ひつるは算段した。