大江戸シンデレラ
しばし、さようなおつたの姿を見つめたあと、舞ひつるは重い息を吐き出した。
そして、きちっと三つ指をついて、
「お内儀さん、今までお世話になりなんして、誠にありがたきことでありんした」
ゆっくりと頭を下げた。
「此れぞ、久喜萬字屋の振袖新造」と云う嫋やかなお辞儀であった。
ここまで、衣食住に心配することなく、歌舞音曲の芸事はもちろん、和漢籍の学問まで身につけさせてくれたのは、おつたである。
せめて、大恩あるこの人に御礼を述べて最後の挨拶ができるだけでも、ありがたいと思わねばならぬかもしれない。
世の中には、どうにもならないことがある、というのは——かようなことなのかもしれぬ。
舞ひつるは、すっ、と立ち上がった。
そして、黄八丈の上前を整えると、背筋を伸ばして襖に隔たれた出口へと歩んだ。
「あぁ……舞ひつる、お待ち」
なぜか、おつたが引き止めた。