大江戸シンデレラ

不思議に思って舞ひつるが振り向くと、

「おまえさんとは、これで今生(こんじょう)の別れになるとは思うがね」

舞ひつるを説得して安堵したはずのおつた(・・・)の顔が、今までに見たことがないほど強張(こわば)っていた。

「あたしらは……たとえ会えなくなっても、一蓮托生だっつうことを決して忘れるんじゃないよ」

——わっちが此処(ここ)を出なんしてもかえ。

流石(さすが)(いぶか)しげな面持(おもも)ちになった舞ひつるに、

「いいかい、此処を出たら金輪際、(さと)言葉を遣うのは御法度だからね」

おつたは、きっぱりと告げた。

「向こうでは、おまえさんが(くるわ)(おんな)だったっつうことを……絶対に知られないようにしとくれよ」


さようなことは、吉原を出るからには至極当然のことであった。
娑婆(町家)ではやはり「苦界」と呼ばれる地で咲いた徒花(あだばな)を、快く思わぬ者がいるからだ。

またそれは、同じおなごに多いと聞く。

とは云え、産湯を使ったときから吉原(ここ)にいる舞ひつるにとっては、至難の技であろうが。

舞ひつるは「承知しなんした」と云いかけ……
それが廓言葉であったと思い直し……

結局は、大きく首を縦に肯くだけになった。
前途はなかなか厳しそうだ。


そして、今度こそ(ふすま)を開けて部屋の外に出た。

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