大江戸シンデレラ
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突然の我が身一つでの「夜逃げ」となってしまった。

舞ひつるが久喜萬字屋の裏口から外へ出ると、お内儀(かみ)の云ったとおり駕籠舁(かごか)きが待っていた。

二人とも、一見しなやかそうな(からだ)つきではあったが、大人の男すら担いで動くのだ。
おそらく、屈強な体力を持ち合わせているに違いない。

到底、逃げられるものではない。

二人のうちの片方が、四つ手駕籠の垂れ(むしろ)をひらりと上げた。
四つ手駕籠は町家の者がよく使う駕籠で、辻駕籠とも呼ばれる。

舞ひつるはなにも云うことなく、駕籠の中に入った。

すぐに、駕籠の筵が下される。

これで、お内儀のほかはだれ一人として暇乞いの挨拶を申すことなく、吉原から姿を消すことになった。

不義理の極みに、思わずくちびるを噛みしめる。

それに……


——若さまは……今ごろ、お稲荷さんで……

きっと、わっちをお待ちになっとりんす……

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