大江戸シンデレラ
前後に陣取った駕籠舁きが、舞ひつるの乗った駕籠を持ち上げる。
掛け声とともに、いきなり身がふわりと浮いた舞ひつるは、あわてて天井から垂らされた紐に掴まった。
また掛け声がして、駕籠が進み出す。
どうしても左右に揺れるため、舞ひつるは掴んだ紐をしっかりと握り直した。
踏ん張らないと、舌を噛むことすらある。
——結局のところ……若さまには、
わっちの真名も云えずじまいでなんした。
下ろされた筵のために、外は皆目わからない。
いや、たとえ上げられていたとしても、漆黒の闇夜が広がるばかりで、やはりなにも見えないであろう。
——玉ノ緒は、おのれの真名を……
「おゆふ」いうその名を……
若さまから……呼ばれなんしていたと云うのに。