大江戸シンデレラ
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船頭が漕ぐ舞ひつるを乗せた猪牙舟が、すーっと河岸に寄っていく。

どうやら、この辺りで舟から降ろされるようだ。

月も雲で隠れ、周囲は真っ暗闇ゆえに夜目はまったく利かない。

よって、舞ひつるには此処(ここ)何処(どこ)だかさっぱりわからない。

されども、やっぱりこの河岸で降ろされて、暗闇に足を取られぬよう気をつけつつ岸辺に上がれば、先刻(さっき)とはまた違う駕籠舁きが待っていた。

ずしりと重い巾着は、とても(たもと)の中には入れられないため、しっかりと(かか)え直してから、舞ひつるは新たな駕籠の中へと身を収めた。


そして、しばらく駕籠に揺られたあと、ある家屋の裏口に着いた。

其処(そこ)で降ろされ、建物の中へと促される。

やはり辺りは真っ暗で、夜目はまったく利かない。

建物から出てきた女中のような風情(ふぜい)おなご(・・・)の手引きで、舞ひつるはある部屋に通された。

入った途端(とたん)(かび)臭さが鼻をつく。

敷かれていた布団も、薄っぺらい煎餅布団なのは云うまでもなく、じめじめと湿っていた。

とても寝られる代物ではなかったが、いかんせん身体(からだ)は疲れ切っていた。

舞ひつるは仕方なく横になり、目を閉じる。

すると、瞬く間に眠気が襲ってきた。

ただ、胸にある重い巾着をしっかりと抱きしめて離さないこと以外には……何物にも逆らえなくなってしまった。

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