大江戸シンデレラ

目を閉じてから(いささ)かも経っておらぬというのに、ゆさゆさと揺さぶられたため、舞ひつるは薄目を開けた。

目の前で正座をした(よわい)四十ばかりの見知らぬ女が、舞ひつるの肩を揺すっていた。

びっくりして、一気に目が覚めた。

辺りがすっかり明るくなっている。
いつの間にか、朝が訪れていた。

あわてて布団から身を起こそうとすると、女が云った。

「参って早々、朝寝を貪るとは不届き千万」

人の妻であろう。
丸髷に結った髪に、眉がしっかりと剃り落とされていた。きっちりとお歯黒が塗られたその口の中は、昨夜見た漆黒の闇のようだ。

糸のごとき細い一重の目に、顔の中央にずんぐりと居座った鼻、そして(えら)が張って四角い輪郭のその女は、いっさい化粧(けわい)の手を加えていないためか、表情がなくのっぺり(・・・)としていた。

見目麗しき吉原の(おんな)ばかりを見て育った舞ひつるには、とんと見慣れぬ(かんばせ)であった。

思わず、まじまじと見てしまう。


「……初めて()うた者の(おもて)を、不躾に眺むるなどとは、重ね重ね不届き千万」

言葉はきついが、表情はのっぺりとしたままだ。

般若のごとき鬼面で云われるよりも、この泥眼(でいがん)のごとき能面の方が、なぜか肝が冷えた。

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