大江戸シンデレラ
「なんという無礼な女子か。
そなたは、返事一つもまともにできぬのか」
女は呆れ果てた口調で云った。
されども、すぐに思い出したかのように、
「あぁ、そうであった……そなた、国許の訛りが相当ひどいらしいな」
と、さも莫迦にした物云いをした。
どうやら、舞ひつるが吉原で培われた廓言葉は、「お故郷訛り」ということになっているようだ。
とは云え、知る者が聞けば、即座に遊女や女郎の語り口だと判る。用心に越したことはない。
久喜萬字屋のお内儀が、舞ひつるが吉原を出ても「一蓮托生」だと云っていた意味が、なんとなく見えてきた。
——確かに……命にも関わりなんしことでありんす。
目の前の女の言葉が、武家筋のものであったからだ。
もし、なによりも「体面」を重んじる御武家様を、吉原の妓ごときが欺いたと露わになろうものなら——
切り捨て御免、とばかりに、舞ひつるも久喜萬字屋の者も、それこそ我が身を一刀両断されるやもしれぬ。
舞ひつるの肝が、さらに冷えた。