大江戸シンデレラ
かようなままでは埒が明かぬ、と悟った舞ひつるは、渋々ながら帯を解き、するりと黄八丈を脱いだ。
すると、その下から目にも鮮やかな緋縮緬の襦袢が顕れた。
「そ、そなたっ……何という淫らな色の襦袢を召しておるのじゃっ」
今まで冷ややかな物云いだった女が、突然声を荒げた。
「まるで、町家の小娘が纏うがごとき……いや、卑しき吉原の妓の様ではないかっ」
『吉原の妓』と聞いて、舞ひつるの心の臓がきゅーっと縮こまった。思わず胸に手を当てる。
「そなたには、武家の子女としての心得はござらんのかっ」
舞ひつるの父親は、お武家の者だと云うことだが、一度も会ったことがない。
ゆえに、生まれてこの方、おのれを「武家の子女」だとは、つゆほども思ったことがなかった。