大江戸シンデレラ

吉原は御公儀(江戸幕府)がお墨付きを与えた唯一の遊郭であったため、大門をくぐった左手に面番所が設けられていた。

其処(そこ)には、御役目に就く町方役人の隠密同心と、その手足となって動く岡っ引きや下っ引きたちが詰めている。

そして、この時分にはしばしの間、同心の子弟たちが「見習い同心」としてやってきていた。

見習いとしてさまざまな御役目を順繰りに廻っている最中なのだが、生まれたときから世間の波を被ったことのない子弟たちは、苦界(くがい)と云われる吉原に身を沈める(おんな)たちをあたかも塵芥(ちりあくた)のごとく蔑んだ目で見た。
そのうえ、上役の目の届かぬところではなにかと狼藉を働いていた。

吉原じゅうの者がこの者たちに閉口していたが、道理のわかる年嵩(としかさ)のお武家ならいざ知らず、かような世間知らずどもはおのれの矜持を守るためなら御家(おいえ)後先(あとさき)なぞ顧みず、にわかに腰から太刀(たち)を引き抜いて「切り捨て御免」とやるやもしれぬ。

とにかく、触らぬ神になんとやら、という連中であった。


「……おい、女郎。(よわい)十四・五だろうが、おまえ女郎だろ。もう見世には出てるのか」

そのうちの一人が、ずいっと一歩前に出て、舞ひつるの行く手を阻んだ。

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