大江戸シンデレラ

舞ひつるは、しまった、と思った。

あわてて起き上がった拍子に、夜具の端から巾着袋がちらりと見えてしまっていた。

「なにをしておる。(はよ)う見せないか」

女がじろり、と舞ひつるを見る。

舞ひつるはたじろいだ。

今まで育ててくれた久喜萬字屋のお内儀(かみ)の最後の「温情」だが、かなりの大金だ。

何処(どこ)のだれであるのか、さっぱりわからぬ相手には、見せたくなかった。

「まさか……(やま)しいものでも入っておるのではあるまいな」

女の目が凍てついていた。


あらぬ疑いをかけられ、武家言葉で否定しようにも、なんと云っていいのか皆目わからない。

舞ひつるは、ただぶんぶんと首を左右に振るしかなかった。

「では、差し出されよう」

女は取り付く島もなく、求める。

< 141 / 460 >

この作品をシェア

pagetop