大江戸シンデレラ
「……御新造さま、持ってきやした」
女に命じられて座を外していた女中のおさとが、襦袢を手にして帰ってきた。
『御新造さま』と呼ばれた女はなにも云わず、ただ顎でおさとに指図した。
もともと「新造」とは、武家の中でも下級役人に嫁した女の呼び名であった。
上級の方になると「奥様」となり、さらに大名級ともなると「奥方様」に変わる。
おさとが心得たとばかりに、紺絣の隣に白い襦袢を置く。
「あ、そいから髪結いの姐さんは、もう直に来るっつうこってす」
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
着慣れた黄八丈も、緋縮緬の襦袢も、すっかり手放した舞ひつるは、今や紺絣と白い襦袢を身につけた姿となっていた。
一応島田髷でこそあれ、あないに高く大きく結われていた髷が今は低く小さく結われており、あないに張り出していた鬢の膨らみもほとんどなくなって、すっきりと結い上げられている。
さらに、化粧をいっさい取ったままのその顔は、十五と云う齢よりもっと幼く、あどけない面立ちとなってしまった。