大江戸シンデレラ
途方に暮れる美鶴を尻目に、
「針箱は其処いらへんにあるだろっから、探しておくんなせぇ」
と云って、おさとはさっさと出て行った。
実は、美鶴が寝起きするために与えられた「部屋」は、六畳間に古い箪笥などが押し込められた「納戸」であった。
納戸は、畳のない板張りの床だ。
ゆえに、その上に煎餅布団を敷いて寝ると、朝起きれば身体が軋んで腰に痛みが走った。
苦界と呼ばれる廓の暮らしの方が、よっぽど心地よく思われた。
——確かに此処であらば、針箱と云わずさまざまな物が置いていなんし。
とりあえず、畳んで寄せておいた布団の隣にある箪笥から抽斗を開けていく。
人の出入りがなく、ずいぶんと長い間放ったままにしていたのであろう。とたんに埃が舞い上がった。
袖の先で口元を覆って咳き込みつつも、乱雑に物が入った抽斗から、なんとか針箱を探し出した。
だが、しかし……
反物と針箱を目の前にして、美鶴はどうすることもできなかった。