大江戸シンデレラ
さりとて、美鶴とてなにかしらやろうとは思ったのだ。
まずは女物からと思い、自らの紺絣の着物を広げて、どのような布地の裁ち方をすればよいかを考えてみた。
されども、もし間違った裁ち方をしてしまったなら、もう布地は元には戻らない。
ゆえに、どうしても布地を裁てずにいた。
「……ゆ、浴衣の縫い方が……
わ、わからぬゆえ……」
美鶴は「なんし」という廓言葉を決して出さぬようにしつつ、なんとか申し開きした。
「そないな歳にもなって、まだ浴衣の一つも縫えぬのか。十歳になるかならぬおなごですら縫えようものを、そなたは縫えぬと云うのか」
多喜は信じられない面持ちで呟いた。
町家や百姓家に生まれたおなごはもちろん武家の娘ですら、よほどのことでもない限り人には頼まず、自分や身内の着物はおのれで縫うのだ。
そのため、どの母親も娘にはしっかりと教え込んだ。
嫁入りのための、いろはの「い」であるからだ。
身分が違えども、娘が縫い物のできぬのは「母親の恥」と云われた。
「いったい諸藩の下屋敷とやらは、如何なる女子を育てておるのか。
……嘆かわしいにも、程があろうぞ」
諸藩の下屋敷でも、女子であらば縫い物をするだろう。
多喜には知るよしもないが、まったく針が使えぬのは、それこそ廓の妓——遊女くらいだ。
さような廓でも、実は女郎であれば細々とした物までお針子に頼むのは気が引けるため、おのれで繕い物くらいはしたのだが。