大江戸シンデレラ
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多喜がまったく顔を見せなくなった。

浴衣を縫うように命じられた以外には、なにも云われておらぬゆえ、美鶴にはすることがない。

(くるわ)にいたときは、見世の御座敷に歌舞音曲の稽古にと、休む間もなく立ち動いていた身である。
どうにも間が持たない。


——舞をしとうなんし……

思えば、大川(隅田川)の川開きの日に姉女郎の羽衣と御座敷で舞ったのが、最後となった。

正直を申せば、もっともっと稽古を重ねて、かの道を極めたかった。
まさか、我が身の行く末に舞うことのできぬ日々が来ようなど、思いもよらなかった。

いずれ廓での年季が明けた暁には、見世に残り若い()たちに舞を教えて暮らしを立てようか、と思い描いていたくらいだ。


——舞うのは無理でも、せめて、そっと端唄(はうた)でも口ずさみとうなんし……

「舞ひつる」であった頃、舞と同じくして唄も精進していた。
なにもすることがなく、じっとしているままだと、自ずと口をついて出てきそうだ。

もし、その唄が家中(かちゅう)の者に聴かれでもすれば大事(おおごと)になってしまう。
となれば、大恩ある久喜萬字屋にとっても一大事となろう。

にもかかわらず、今の美鶴にはあの難儀したお三味(しゃみ)ですら、弾けるものなら喜び勇んで弾きたい、と思わずにはいられぬ心持ちになっていた。

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