大江戸シンデレラ
すっかり間を持て余していた処に、縁側を雑巾掛けするためにおさとがやってきた。
「あっ、我が身にも雑巾を……」
決して「なんし」という廓言葉が出ぬよう用心しつつ、美鶴はなんとか声をかけた。
「と、とんでもねぇっ」
いきなり、強い物言いで突っぱねられた。
「お嬢には、手の荒れるような真似をさせちゃなんねえ、っつうことになってるんで」
おさとはそう云うなり、そそくさと雑巾掛けを始めた。
こうなると、声をかけては仕事の邪魔になる。
——『手の荒れる』水仕事を禁じられたがゆえの「縫い物」でありんしたか……
たった今「お嬢」と呼ばれたことや、そもそも白足袋が与えられていることからも、当家では美鶴がおさとみたいな下働きとは、一線を画す扱いであることは確かなようだ。
とならば、やはりこの家が美鶴の「身請け先」であろうか。
だが、しかし……
武家の家格が如何なるものか、美鶴にはとんと判らぬが、この家の無駄を極力省いた簡素な造りや、主の妻である多喜の地味で質素な身形からは、吉原の振袖新造を落籍るほどの財力があるとは、到底思えなかった。