大江戸シンデレラ

美鶴は、針箱から取り出した針と糸を手にした。

思いの外(ほか)、針の穴が小さくて難儀しながらも、なんとか糸を通す。

——確か、糸の尻を結んでいなんしたか。

吉原にいた頃、お針子が妓(おんな)たちの着物を縫うさまを、何気なく見ていた。

思い出しながら、糸の先を一つ結んでみる。

結べた、と思って見てみると、お針子がこともなげに拵(こしら)えていた丸い玉が、なぜかできていない。

それから何度もやってみるが、悉(ことごと)く空を切っていた。


しばらくして、ようやく「玉」をつくることができた。

たったこれしきのことで、すでに骨が折れた。

——唐土(もろこし)（中国）の古人がものした書物を読む方が、よっぽど容易(たやす)うなんし。

だが、肝心なのはこれからだ。

美鶴はため息を吐くも、なんとか気を取り直し、半分に折った端切れの布を、いよいよ縫っていくことにした。

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