大江戸シンデレラ

部屋というには名ばかりの納戸へ入ってきた多喜は、美鶴を蔑んだ目で見下ろした。

今日もまた運針の稽古をしていた美鶴の手許から、格子柄の端切れの布を引ったくるように奪う。

その布をじろりと見たかと思いきや、すぐに目を逸らし、

「……おさと」

縁側に控えていたおさと(・・・)の名を呼ぶと、美鶴から奪ったその布を、まるで(けが)らわしい物を捨て去るかのごとく板張りの床に放った。

布にはまだ針が刺されたままであったから、美鶴はあわててそれを拾う。

「へぇ」と返事したおさと(・・・)が納戸に入って来るのと入れ替わるようにして、多喜が縁側に出た。
そして、そのまま美鶴の目の前から去って行く。

……どうにも美鶴とは、口すらも利きたくないらしい。


あとに残ったおさと(・・・)は布地を抱えていた。

どうやら、綿布のようだ。しかも、使い込んだ物らしく、かなり草臥(くたび)れていた。

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