大江戸シンデレラ
御公儀の意向により異国との交易が制限されている昨今、さようでなくとも資源の乏しい我が国は、物不足に悩まされ続けていた。
なかでも、日々の暮らしに欠かせない綿布は国内だけでは賄えず、辛うじて交易を赦している国の一つである唐土(中国)より買い入れていた。
庶民が使う安価な綿布のために、年貢の課せられた田を割いてまで、その元となる綿花を植えて育てようなどとする百姓は、そうはいないからだ。
それならば、百姓たちが商家から金子を稼ぐために、上つ方がお召しの高価な絹布の元となる生糸を生み出すお蚕さんを、こぞって飼う方がよっぽど得策だった。
ゆえに、綿布とて庶民にとっては「高値」の花で、新品で仕立てられた着物なぞ、夢のまた夢であった。
たいていの者は損料屋などで流れた質草の古着を手に入れ、生地が傷みほつれが目立ってどうしようもなくなるまで着倒す。
それでも、なるだけ生地の傷みの少ない処を使って子どもの着物に仕立て直す。
生地の傷みがひどい処は手拭いや赤子の襁褓にして、その後は雑巾にした。
ほつれのひどい処は縒って、下駄の鼻緒にする。
そして、雑巾や鼻緒にも使えなくなったら、最後に竈に焼べて灰にし、田畑の肥料を求めて買いに来る百姓へ売るのだ。