大江戸シンデレラ
◆◇ 六段目 ◇◆

◇閾の場◇


来る日も来る日も、美鶴は雑巾を縫う手を止めることなく励み続けた。

とりあえず一枚を縫い上げると、いつも(せわ)しなげに立ち動いているおさと(・・・)を悪いと思いつつ呼び止め、見てもらう。

もし良ければ次の一枚に取り掛かれるが、悪ければ糸を解いてまたやり直しだ。


この日も朝から縫い物をしていると、家屋敷の塀の向こうから、棒手振(ぼてふ)りと呼ばれる行商人の売り声が聞こえてきた。

いつもは魚や野菜を(ひさ)ぐ声であるのに、今日はめずらしくお(さい)(惣菜)である。

美鶴は居ても立ってもいられず、奥の箪笥(たんす)にしまっておいた巾着を取り出した。
そして、其処(そこ)からいくらか銭を取り出し、(たもと)へ入れる。

部屋から縁側に出ると、おそらくおさと(・・・)のものであろう。下駄があった。

その下駄をつっかけ、急いで板塀へと向かう。
ぐるりを見渡すと、裏口と(おぼ)しき(ところ)に木戸があった。

美鶴はその木戸を開けて、表に出る。

あの日、真夜中に此処(ここ)に連れてこられたとき以来、ひさかたぶりの「外」であった。

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