大江戸シンデレラ
「某に頭を下げることはないゆえ、どうか面を上げてくだされ」
男は美鶴に向けて、穏やかに告げた。
「某は、上條 広次郎と申す。
北町奉行所の内与力・上條 広之進が息子にて生まれしが、次男ゆえに生家を出てこの島村家に養嗣子として入ることになっておる者でござる。
……そなたの名は何と云うのか」
「み、美鶴で……ござりまする」
面を上げることなく、美鶴は名乗った。
とりあえず『ござりまする』と語尾に付けておいた。
「かっ、勝手に名乗りを挙げるものではないっ、烏滸がましい」
多喜の声が割って入った。