大江戸シンデレラ

「……へぇ、鈴のような声ってのは、本当にあるんだな。それに、お廓言葉(さとことば)ってのも、いいねぇ」

男たちの一人が感に()えた声音で、下卑た笑みを浮かべた。
ますます興を(いざな)ったようだ。

釣られてほかの男たちも、武家の生まれとは到底思えぬ、にやにやと(わら)う、浅ましい顔つきになっていく。

「おい、女郎。おれたちから揚代(おあし)が取れねぇからって、見世に帰ってから騒ぎ立てるなよ。
もし、さような気があろうものなら、生きては帰せねぇからな」

「おれたちゃあ、公方(将軍)様より『切り捨て御免』が(ゆる)されてるんだ。
存分に愉しませてもらったあとは、刀の鍛錬も兼ねておまえをバッサリと袈裟懸けにでもして、()っちまうか」

「そもそも、おまえのような下賤な(おんな)に、おれらのような身分の者が『情け』をかけてやるんだ」

「くくっ、そうだな……女郎、ありがたく思え」

このあとこの身に降りかかる、男たちにされるであろうことが、舞ひつるの頭を()ぎる。

思わず背筋に()んやりした汗が、つーっと一筋流れた。

生娘ではあったが、(くるわ)で生まれ育った身の上だ。
男女の営みのことは、幼き頃より(いや)というほど聞きもしたし、見もしてきた。

親兄弟によって売られてきた町家や百姓の(おなご)が、泣き叫びながら初花を散らされるさまは、吉原にとってはありふれた「日の(つね)」だった。

ゆえに、身体を売ることを生業(なりわい)とする中で生まれ育ってきた舞ひつるにとっては、初花を散らすのが「特別」なことであるとは思っていない。


さりとて……

——わっちの「初物」は「初見世」でわっちを買いなんし(ぬし)さんの物でありんす……

今まで費やしてきた精進の日々を思うと、ただただ「無念」であった。


ついに……男たちの手が伸びてきた。

その手が、舞ひつるの頼りなさげに薄い両肩と、舞の稽古で備わった細くてしなやかな柳腰にかかった。

(まご)うことなき(うつつ)のものとして、得も云われぬ恐ろしさが、心の奥底から競り上がってくる。

なのに、いっさい声も出せずに、ただぎゅーっと目を(つむ)るしかなかった。

< 18 / 460 >

この作品をシェア

pagetop