大江戸シンデレラ
さらに、島村の家に戻れば、今度はおさとが「縫い物の師匠」である。
そもそも、おさとは出は町家ではあるが、父親も母親も上條家に仕える者で、その伝手で島村の家に奉公するようになった。
縫い物は、子どもの頃から母親であるおきくによって、みっちりと仕込まれていたゆえ、特に得手としていた。
さようなおさとの腕前は、あの口うるさい多喜ですら一目置くほどで、島村の主人が身につけるものを一手に任されていた。
「……ここだけの話にしておくんなせぇよ」
すっかり気安う話せるようになったおさとが、見事な手つきで針を運びつつ声を潜めて云った。
「実は、御新造さんは縫い物が大の苦手で、旦那様の着物どころか浴衣一つまともに縫えたためしがねえんでさ」
——ええっ、まさか……
美鶴はびっくりして、思わず手が止まってしまった。
「そいだってんのに、お嬢にはあないなひどいことをしてたんでさ」
美鶴ですら、すでに浴衣くらいであらば一人で仕上げられるくらいにはなっていた。
「お嬢はまだまだ手は遅いけど、縫い目が丁寧だから仕上がりがきれえなんでさ。
……あ、そうだ」
なにか、閃いたようだ。
「お嬢、もうそろそろ旦那様のために、浴衣でも縫っちまいましょうや」