大江戸シンデレラ
◇遭逢の場◇
その日の島村家は、朝から慌ただしかった。
卯の方角にある客間にいる美鶴の処にも、数名いる使用人たちの立ち働く音が聞こえていた。
時折、思うままに動かぬ使用人のことを叱責しているのか、多喜の荒げた声も漏れ伝わる。
「……おさと、朝から何の騒ぎじゃ」
おさとに教えてもらいながら、単衣の着物を縫っていた美鶴は尋ねた。
隣家の刀根のおかげで、ずいぶんと武家の言葉にも慣れてきた。
「お嬢、ひさかたぶりに旦那様が御役目から戻ってきなさるんでさ」
おさとがうれしそうな顔で答えた。
——えっ、この御家の主人が……
縫い物をしていた美鶴の手が、思わず止まった。