大江戸シンデレラ
此処へ連れてこられた頃には、吉原の廓では禁忌であった「真名」を多喜から呼ばれるたびに落ち着かない心持ちでいたのもであったが、今ではすっかり慣れた。
「振袖新造・舞ひつる」であった時分が、なんだか遠いとおい昔のような気がした。
遊女の娘として生まれ、母のような呼出(花魁)になることを夢見て、幼き頃より歌舞音曲の稽古や教養を身につけるための学問に精進した。
あの頃は、遊女となり年季を終えたあとも、舞や唄の師匠として一生吉原で生きていければよい、とすら思っていた。
なのに……
——わたくしは……今やすっかり「武家の娘」として生きておる。