大江戸シンデレラ

いったん思い出せば、みるみるうちに引き戻されていく心持ちがした。

よく似た歳格好の広次郎が祝言を挙げる、ということは……

もしかしたら、そろそろ兵馬にも縁談があるのかもしれない。

——それとも、すでに許嫁(いいなずけ)が……

確か兵馬の松波家は、島村家のような同心たちを束ねる与力の御家(おいえ)であったはずだ。

刀根はまた、武家の縁組にはなによりも「家格」が重きをなすと美鶴に教えていた。

幼き頃より定められた「相手」がいるのかもしれぬ。

——きっと、同じ「与力」の御息女でなんし。

そう思ったとたん、美鶴の心の臓が、ぎりりと締めつけられた。


天地がひっくり返ったかのような、今の暮らしの中で……

いつしか兵馬の面立(おもだ)ちも声も姿も薄れて……

まるで霞の如く(はかな)く消え去って……

そんなふうに、いつの間にか時は過ぎていくものだと思っていた。

されども……

美鶴は、目を閉じて俯いた。


「……美鶴殿、如何(どう)なされた」

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