大江戸シンデレラ
◆◇ 七段目 ◇◆
◇祝言の場◇
その日は、目覚めたと思ったら目の前におさとがいて、美鶴は飛び上がるほどびっくりした。
「……お嬢、起き抜けにすまねぇこってす。
あと四半刻(約三十分)もすりゃあ、駕籠が来るんで」
おさとはさように云うと、美鶴の着替えの着物を差し出した。
「いったい、朝から何事か。
しかも、四半刻までに支度せねばならぬとは、わたくしは駕籠で何処へ参ろうと云うのか」
美鶴は不思議に思って尋ねた。
そもそも、この島村の家に来て以来、向かいの千葉家のほかに美鶴が何処かに出かけるというのは皆無だった。
「それが……あたいもなにも聞かされてなくて。
ただ、お嬢が起きなすったら支度を手伝うように申しつけられただけで……」
おさとがすまなそうに答える。
美鶴は仕方なく夜具から出て、寝巻きから渡された着物に着替えることにした。
手早く着替えをし、次は化粧と思っておさとに求めると、
「あ、お顔の方はそのままで、お願いしやす」
なぜか化粧を施すことなく、そのときちょうど裏口に駕籠がやってきたというので、美鶴はいそいそと島村の家を出ることとなった。