大江戸シンデレラ

御公儀(幕府)下知(げじ)により、江戸市中の治安を守るため、町家を管轄しているのが町奉行所だ。

「北町奉行所」と「南町奉行所」があり、其々(それぞれ)で仕える「与力(よりき)」たちを中心にして、月替りで交互に御役目にあたっていた。

しかしながら、いざ(ちまた)で厄介ごとが起こった際には、与力が出向くことはほとんどなく、奉行所内で一番数の多い「同心」がいち早く現場に駆けつけ、御役目を果たすことになっている。

——かの五人は、その子弟だった。

さような同心たちを組に分けて束ねるのが、数ある与力の御役目の中でも「同心支配役」と呼ばれる「筆頭与力」だった。

——『若さま』……松波 兵馬は、代々その筆頭与力の任を仰せつかる家で生まれた。


与力には同心には(ゆる)されていない江戸市中での騎馬が赦されていたが、「差」はそれだけではない。

実は、同心は町奉行所の役人ではあるが「士分」ではなかった。
武家である「士分」と「町人」の間に属する身分なのだ。

ゆえに、如何(いか)に手柄を立てようとも、決して同心が与力に取り立てられることはない。

与力と同心の間には、かようなまでの「身分の差」があった。

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