大江戸シンデレラ

背後に回った女が、二人掛かりで美鶴の帯を解く。

ばさりと落ちた着物の下から現れた襦袢の、腰紐がすかさず緩められる。

ふわりと浮いた襟元がぐっと後ろへ抜かれるとともに、両肩がぐいっと押し出される。

心許なくなった其処(そこ)には手拭いが巻かれた。


すると、先程の年嵩の女が刷毛(はけ)を持って美鶴の前に立った。

「ちょいと()んやりとしやすが、堪忍してくだせぇよ」

毛先の白く染まった刷毛が美鶴の顔に近づく。

——水化粧でなんし。

吉原で「舞ひ(まい)つる」であった時分に、毎夜施されていた、水に溶いた白粉(おしろい)を塗る 化粧(けわい)だ。

されども、町家や百姓家のおなごにとっては、晴れの日である祝言のときくらいにしかしない、特別な化粧である。

なぜ、島村の家を出る前に化粧をさせてもらえなかったのかが、(わか)った。


——わっちは……

本日、ほんとうに祝言を挙げなんしかえ。

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