大江戸シンデレラ
そして、兵馬は「与力」として「同心」たちに命じた。
「おまえたちの沙汰は、追って目付役より出させるゆえ…… 即刻、御役目に戻れ」
武家に生まれたる者にとって、上役からの下知は「絶対」だ。
「「「「「御意」」」」」
さように声を揃えた男たちは、がっくりと肩を落としつつも、足早にこの場を去って行った。
「……お武家さま」
舞ひつるは、おずおずと兵馬に声をかけた。
本来であらば、舞ひつるのような下賤な者から与力などという雲の上のお方に話しかけるのは御法度である。
だが、おのれの不用心から生じたことで助けてもらった手前、詫びだけは云っておきたかった。
「此度は、危なき処をお助けおくれなんして、まことに申し訳のうなんし」
嫋やかな所作で深々と頭を下げる。
「おめぇさん、『なんし』って物云いをするってこたぁ、久喜萬字屋の妓かい」
舞ひつるは、目を伏せながら肯いた。