大江戸シンデレラ

町家の娘のような黄八丈の着物に黒繻子の掛け襟、そして真っ白な前掛け姿のおなご(・・・)が、剣術(やっとう)の稽古に通うような着流しに袴姿の男たち五人ばかりに取り囲まれていた。

大小の刀を携えた、二本差しの武家の男たちだ。

だが、此処(ここ)は吉原である。

いくら町娘の出立(いでた)ちであろうと、花街で生まれ育ったゆえの、そこはかとなく匂い立つ色香はどうにも隠せなかった。

浅葱裏(あさぎうら)」と揶揄される無骨なお武家の男たちが、黙って見過ごせるわけがない。


「……へぇ、鈴のような声ってのは、本当にあるんだな。それに、お廓言葉(さとことば)ってのも、いいねぇ」

男たちの一人が感に()えた声音で、下卑た笑みを浮かべた。
ますます興を(いざな)ったようだ。

釣られてほかの男たちも、武家の生まれとは到底思えぬ、にやにやと嗤わらう、浅ましい顔つきになっていく。

「おい、女郎。おれたちから揚代(おあし)が取れねぇからって、見世に帰ってから騒ぎ立てるなよ。
もし、さような気があろうものなら、生きては帰せねぇからな」

「おれたちゃあ、公方将軍様より『切り捨て御免』が(ゆる)されてるんだ。
存分に愉しませてもらったあとは、刀の鍛錬も兼ねておまえをバッサリと袈裟懸けにでもして、()っちまうか」

「そもそも、おまえのような下賤な(おんな)に、おれらのような身分の者が『情け』をかけてやるんだ」

「くくっ、そうだな……女郎、ありがたく思え」

< 241 / 460 >

この作品をシェア

pagetop