大江戸シンデレラ
いきなり飛んできた音声に、
「なんだ、おまえっ、おれたちに向かって……」
男たちの一人が声の主に向かって声を荒げたが、
「……うっ、島村様……」
その顔が目に入ったとたん、急に勢いを失う。
「な、なにゆえ、かような処に島村様が……」
ほかの者も、みるみるうちに血の気の失った顔に変わっていく。
男たちは、見習いとしてさまざまな御役目を順繰りに廻っている最中の「見習い同心」であった。
かねてより、上役の目の届かぬところでなにかと狼藉を働いていたのであるが、よりにもよってその上役である尚之介に見咎められたのだ。
尚之介の切れ長の鋭い目が、見習い同心たちを射抜く。
「汝らが多勢に無勢で、見境なく見世の者たちに狼藉を働いておるのは、すでに吉原の方々で噂になっておるゆえ」