大江戸シンデレラ
ゆえに、見世から胡蝶が外へ出るのを唯一赦されている「明石稲荷詣で」に託つけて、二人は逢引きしていた。
胡蝶が御堂の裏から入ったのを見計らって、あとから尚之介が入り込む。
待ちに待った尚之介を見ると、
「あぁ……尚之介さま……」
胡蝶は泣き笑いのような顔して、その胸に飛び込んだ。
「……お逢いしとうなんした……」
すると、尚之介もまた抑えきれぬ想いが込み上げてきて、
「おてふ……」
とつぶやき、胡蝶をかき抱く。
「おてふ」とは胡蝶の父親が名付けたという真名であった。
だが、二人とも人目につく麗しき見目かたちである。
こうして忍んで逢っている姿が、いつだれの目に止まるとも限らない。
しかしながら……
そうは云うたとて、ひとたび顔を見て肌を合わせてしまえば、なかなか断ち切ることができぬのが「戀」というものである。