大江戸シンデレラ
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しばらくして、胡蝶の(はら)に子が宿ったのがわかった。

それに感づいた久喜萬字屋のお内儀(かみ)・おつたは、鬼灯(ほおずき)で子を流せとは云うことはおろか、(てて)親がだれかを問いただすこともなかった。

もし、おなごが生まれれば、祖母・母の血を引いて三代続く吉原の「呼出(よびだし)」なれるやもしれぬと算段し、またなんとなく相手が「武家」の男であるような気がしたからだ。

そして、密かに胡蝶を久喜萬字屋が持つ別宅へと移し、産み月まで養生させることにした。


別宅に移る前日、髪が乱れた(くるわ)客に呼ばれたゆえと云って、尚之介が髪結(かみゆい)の身なりで胡蝶の前に現れた。

生まれてくる子に名付けるようにとその名を伝えて、しばしの別れを告げる。

ちょうどその折、尚之介は身を変装(やつ)して御役目に入るところであった。


やがて月満ちて、別宅にて胎の子は無事この世に産み落とされた。

胡蝶によく似た、珠玉(たま)のごとくうるわしきおなご(・・・)だった。


されども、「母」となった胡蝶は産後の肥立ち()しく、生まれたばかりのその子を遺して身罷(みまか)ってしまった。

「父」となった尚之介は、胡蝶の死に目には会えなかった。

別宅に移る前日に逢ったあの日が、二人の今生の別れと相成(あいな)った。

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