大江戸シンデレラ

◇来今の場◇


あれから、幾星霜もの時を経た。

歳を重ねて、島村 勘解由(かげゆ)と名を改めたその眼前には、今やすっかり一人前の娘に育った美鶴が花嫁御寮の()で立ちで鎮座している。

小柄で華奢な身体(からだ)つきは元より、今は真っ白な綿帽子に隠れているその愛らしい面立(おもだ)ちもまた、あの頃の胡蝶と瓜二つであった。


実の親が、(くるわ)から我が娘を落籍()かせる場合においては、ふつう身請(みうけ)金が相場より半値となる。

よって此度、美鶴を吉原の久喜萬字屋(くきまんじや)に厳重に口止めをして密かに身請(みう)けしたのは……勘解由であった。

吉原の番所に詰める御役目の隠密(まわ)り同心に睨まれては商いにかかわるゆえ、久喜萬字屋は「虎の子」を差し出さざるを得なかった。


しかしながら、だれにも知られぬうちに美鶴がいつの間にか武家としてかように暮らせるように相成(あいな)ったのは……

安芸国広島新田(しんでん)藩の三代藩主・浅野 近江守(おうみのかみ)の「権力(ちから)」であった。

近江守は、胡蝶が「突き出し」の遊女として初めて見世に出されたときに初花を散らした御仁で、その後は「娼方(あいかた)」にして寵をかけていた。

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