大江戸シンデレラ

——あの 「忘れ形見」に……
胡蝶()の二の舞をさせるわけにはいくまい。

胡蝶亡きあと新たな娼方となっていた羽衣の座敷で、「舞ひ(まい)つる」の舞を初めて見たあの日、近江守はかように思った。

——確か、父は武家の男と申しておったな。

胡蝶自身も、父親は武家の男であった。

——かくなる上は、この娘を真名に戻して「武家の子女」として生まれ変わらせてやるか。


後日、近江守は身請けに掛かる金子(きんす)を用意させるとともに、御公儀(江戸幕府)の御法度の網の目をかい(くぐ)って、方々に手を回していった。

その尽力があったからこそ、美鶴は養女として他家との縁組を幾重にも結ぶことができたのだ。

ゆえに、今では美鶴は広島新田藩の下屋敷にて生まれ育ったことになっている。


北町奉行所の士分も持たぬ隠密廻り同心ごとき勘解由たった一人の力では、到底でき得ることではなかった。

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