大江戸シンデレラ

夜半近くになるまで、美鶴は縫い物をして気を紛らわせていた。

されども、明障子(あかりしょうじ)の向こうの空はいつしか真っ暗闇となっていた。

——そろそろ、(とき)だ。


夫となった広次郎がいつ御役目から戻ってきてもいいように、(ねや)に望む支度を始める。

美鶴は着ていた着物を脱いで、真っ白な寝間着に着替えた。

寝間着、といっても、もう一つの「花嫁衣装」である。
支度されていたのは、滑らかな肌触りの羽二重の上物だった。


すっかり着替えを終えた美鶴は、きっちりと正座して女中が再び現れるのを待った。

武家の妻は、夫とは寝間が別である。
夫から同衾するよう申しつけられたときに、妻が夫の寝間へ通うことになっている。


やがて、女中が美鶴を呼びに来た。

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