大江戸シンデレラ
◆◇ 八段目 ◇◆
◇初夜の場◇
奉公人の案内で、夫の寝間の前まで来た。
軽く三百坪はあろうかと云う広大な御屋敷だ。
案内人がいなくてはたどり着けぬであろう。
奉公人がすっ、と下がる。
美鶴は明障子の前で正座した。
「……美鶴にてござりまする」
声が震えぬよう、腹に力を入れて申す。
「入れ」
くぐもった声が返ってきた。
きっと、広次郎とて気を張り詰めているのであろう。固い声であった。
美鶴は一度息を吸って、背筋を伸ばしてから、明障子をすーっと開けた。
「旦那さま……美鶴にてござりまする」
夫となった広次郎に平伏する。
本日、晴れて夫婦になった二人だが、武家の婚姻など所詮は御家と御家の結びつきでしかない。
ゆえに、かような形式ばった物云いになる。
「御無礼仕りまする」
美鶴は部屋の中へ入った。